日々是〆〆吟味

自分で考えていくための参考となるお話や本の紹介を目指しています。一番悩んだのは10歳過ぎだったので、可能な限りお子さんでもわかるように優しく書いていきたいですね。

数学と芸術の関係性 ~線で遠近法を可能とした空間の数学化の意味と近代西洋絵画の独自性【クライン『数学の文化史』】

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数学と芸術/遠近法の関係 〜ヨーロッパと近代絵画と遠近法

今回はちょっとおまけで、デカルトの考案したX軸Y軸を使った座標軸による空間の捉え方が、とある芸術と深い関わりを持つ、ということでもお話してみたいと思います。

 

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物を物としてだけ捉える空間の数学化

デカルトが空間を数学的に捉えたので神学的な捉え方は後退していきました。それは神の意図とみなせるものを追放し、物はただ物としてだけ把握される、というものに変わります。これは空間や空間に存在するものを意味あるものとして捉えるのではなく、客観的に単なる物質としてだけ捉えることを意味します。

 

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これがひとつの世界観の転換であるのはある程度納得がいきそうな気がします。たとえば小林信彦に『侵入者』という小説があるのですが、この中に地域の御神木を不動産開発のために切り倒してしまう人物が出てきます。地元の反対運動もあったのですが、これはある意味2つの価値観がぶつかっていることになります。木を神聖なものとみなすか、ただ邪魔な物とみなすかですね(ちなみにデュルケームとの関わりでいえば、この両者は共に自分の集合表象を持っていることになるかと思います。そして柄谷行人的な他者として対立しているわけですね)。

 

こうして考えてみますと、物を物としてしか見ないという態度は結構重要な態度の転換だといえるかもしれません。これは哲学的な水準での認識転換です。しかしデカルトにはもう一つ別の側面がありましたね。数学者としての面です。

 

線と点としての空間

空間を数学的に捉えるためには、デカルトがやったようにX軸Y軸という新たな数学の開発が必要でした。そのために物は意味あるものからただ空間に位置するだけの物でしかなくなってしまいました。しかし同時に空間を無数の点と線によって捉えるということも可能としました。

 

すると目の前に広がる光景も、ひとつの数学的な関係としても捉えることが出来ます。りんごの横にみかんがあるとしたら、その位置も距離も測ることが出来ます。そしてその距離が10cmだとすれば、5cmに縮めてしまえば半分の縮図が可能になります。となるとどうにかして目の前に広がる光景を測ることが出来さえすれば、縮図を変えて書き写すことも可能となります。

 

空間の数学化と遠近法

そこでこんな方法をとりました。

四角い枠組みを用意して、その中に等間隔に糸をはります。それを上下左右に行い格子状にします。

 

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ちょっとわかりにくいですが、図にするとこん感じでしょうか(いくらなんでも下手すぎる図な気もしますが、お許しください)。

 

こうした道具を作りますと、この道具を通して目の前に広がる光景を測ることが出来ます。それぞれの物の位置や距離をどの程度離れてあるのか把握し、その割合のままに紙に書いていきます。すると目の前の光景は風景として紙の中に写されるのです。こうして客観的な風景画というものが誕生したのだそうです。そしてこの比率の関係から遠近法の問題も生じ、絵画技法として確立されていくそうです(詳しいことは忘れました。下の本をご覧ください)。

 

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このように、実は美術の問題に数学が関係しているのでした。

 

数学と芸術

一見するとまったく関係ないと思われる分野が密接に結びついていて影響を与えているなんて信じがたい思いです。私はこの関係を知った時驚きました。芸術と数学など絶対に結びつくはずもない、断絶された分野だと思っていたからです。しかしこの結びつきは決定的で、数学、それもデカルトによる座標軸の考え方がなければ、客観的に捉える遠近法のある絵画は成り立たなかったというのです。そして、どうやら本当にヨーロッパ以外では遠近法を用いた絵画は生まれなかったらしく、私たちが普段目にする遠近法のある絵もヨーロッパ産になるそうです。

 

中国や日本の絵画は美しいですが遠近法は無視します。墨絵なんか深山幽谷を描き美しいですが、それは絵画として構成された美しさのようです(美術の判断は私には出来かねます)。また古代エジプトでは壁面に横姿の人間が描かれています。ラスコー洞窟の絵画も美しく具体的らしいのですが、それらは絵画として自分たちの技法を持って描かれている、と考えるらしいです。そしてその技法としてヨーロッパ近代絵画は、根底に数学を持っているのでした。

 

これがヨーロッパの、かなり特異な点だとウェーバーなどは言います(ただウェーバーは音楽で説明されましたけども)。

 

気になったら読んで欲しい本

【クライン『数学の文化史』】 

デカルトの座標軸から縮図の絵画法が生まれ遠近法の誕生といたるのは、この本に書かれていたかと思います。ただ私は数学をよく知らないものですから、間違って理解したり覚えていたりする可能性が高くありますので、気になった方はぜひこの本をご一読ください。よくわかってないんですが、それでも面白いことがたくさん書いてありました。

 

【ゴンブリッチ『芸術と幻影』】 

美術がその文化圏で持っている美術の考え方から技法を規定し表現になっている、とか、多分そんなことが書いてあった本です。とても面白い本なのですが、私には知らないことばかり書いてあって満足に理解できているとは思えません。ので実際に読んでもらえればいいのですが、困ったことに値段が高く本も分厚く中々見かけもしないというこまったちゃんな一冊です。図書館で見かけたらぺらぺらめくってみるのもいいかもしれませんね。もちろん買って読んでいいと思います。長いから本気で読む気があるなら手元に置いておいた方がいいでしょうしね。

【デカルト『幾何学』】 

で、最近ずっと載せているデカルトの本。上に述べたような遠近法のある近代絵画の原点と思うと全然違った観点で見えてくる気もしますね。なんて、私は読んでいないのでそんなことも判断できないのでした。ただこの本は幸い最近になって文庫化されていますから、手に入りやすく値段もはりません。いやぁ、ありがたい話ですね。

【小林信彦『侵入者』】 

例に出したので載せておきます。面白い作品です。私は文庫化される前の、薄い一作だけ入っている単行本で読みました。再刊されるまではそれしかなかったんですよね。トリックが面白いミステリです。わっ、と、驚き楽しい本です。

 

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 お話その99(No.0099)