手塚治虫の危機とキャラクタービジネス 〜グッズ展開がないとやりくりも出来ないんですぅ〜
金のかかるアニメ事業
手塚治虫の名(迷?)言の一つに、漫画は本妻アニメは愛人、というものがあります。今なら怒られそうなセリフですが、当時の社会風潮を踏まえての自虐的な発言だったのでしょう。とにかくお金がかかって、漫画で稼いだ分で補填どころかつぎ込んでも、まだ足りません。結果2度ほど会社を倒産させています。手塚治虫はアニメを愛しましたが、漫画ほど愛されはしなかったようです。
この時が手塚治虫の人生の中で最も辛かった時期の一つだと言います。親しい人は去っていき、頼りにしていた人もいなくなり、周りに誰もいなくなってしまったそうです。後年『未来人カオス』を描いた時、本当の友情ってあるんだろうか、あってほしいと思いながら描いた、それは自分には本当の友達がいないと思っているからだと思う、といった内容のことをあとがきで書いていたかと思いますが、それはこの時の体験を踏まえてのことなのかもしれません。
苦境に差し伸べられた手
ただ、この時助けてくれた人が出てきました。それは家具屋さんで、その人は手塚治虫が苦境にあることを知って連絡をしたのでした。なぜそのような真似をしたのかというと、当時家具屋で勉強机にアトムの絵をのせるとよく売れたから、その恩義が影ながらあったからだといいます。そして大変な状況にある手塚治虫へと手を差し伸べたのでした(昔新聞でこの方がインタビューされていたのを読んだ覚えがあります)。
こうした勉強机は今でもありますね。新学期の前になると、大型ショッピングモールでも置いてあります。ただ昔はアトムだったのがポケモンやサンリオのキャラクターに代わってしまっただけで、やっていることはさほど変わっていないのかもしれませんね。
キャラクタービジネスと手塚治虫の復活
しかし、その代わり映えのしないかとこそ重要な点です。そして、これこそが手塚治虫復活の秘策ともなるのでした。
それは、とにかくお金がかかって会社が倒産するほどでしたから、アニメをやろうと思うとそれ以上のお金を得なくてはいけません。漫画で補填するにも、漫画を描くのも手塚治虫1人です。手塚治虫自身の肩の上に漫画だけでなくアニメスタジオまでのせてしまうのは、いくら天才とはいえ生身の人間である以上限界があります。そこで、勉強机でアトムの絵をつけたら売れたのだから、他のものにもつけたら売れるのではないか、と家具屋さんが思いつきました。
そう、こうしてアニメにしろ漫画にしろ、キャラクタービジネスというものが誕生したのです。
キャラクターグッズとTVアニメ
こうしたキャラクターグッズ抜きにしてはTVでアニメ放送など出来ないようです。それは手塚治虫ほどの漫画家であっても、自身の原稿料ではまかなえないくらいに大金が必要となってくるからでしょう。そして大ヒットして儲かるのも、基本的にはこうしたキャラクターグッズのロイヤリティで儲かるのであって、原稿料や印税、DVDだけではさほどではないのかもしれませんね。何故なら人気のある間は色々な媒体にキャラクターを使ってもらえるから勝手に増殖してくれますからね。しかし人気がなくなればキャラクターグッズは何も生み出しません。ただ在庫の山を残すだけです。
しかし、儲かるというのは個別の作家においてはそういえますが、出版社やスタジオはそうはいきません。作家は基本的に個人ですから1億円もあればお金持ちですが、100人も社員がいる会社では1億円なんて給料だけでもすぐ消えてしまいます。100人に20万のお給料で2000万円。5ヶ月で破綻です。だからまたお金を稼がねばなりません。しかしアニメはロイヤリティを生み出す最大の利益のもとでありながら、手塚治虫が愛人と表現したように湯水のごとくお金を使います。ですから、以前に儲けたキャラクタービジネスのロイヤリティは、次の作品へと注ぎ込まれ、その繰り返しで作品は作られていくと思われるのでした。
スポンサーとキャラクタービジネスと作品
もちろんこれが出版社やスタジオだけで完結できればまだいいのですが、そんなこと出来ません。ロイヤリティが発生する前に、そんなお金ないのです。ですからスポンサーがつかなければなりません。そしてスポンサーはスポンサーで、自らの判断のもと、利益が出るからと作品に出資するのです。まぁ銀行が中小企業の事業内容を熟慮して出資するように、企画された作品に対してスポンサーが熟慮し出資するようなものでしょうか。
こうして手塚治虫は日本におけるキャラクタービジネス/グッズの最初の1人ともなり、また日本のTVアニメはスポンサーによって支えられて作品を作り続けることも出来るようになったのでした。
…しかし、いつまでたってもこの話が終わりませんね。困ったな。
参考となる本
【手塚治虫『未来人カオス』】
この作品は神様の気まぐれで友情が本当にあるのかを確かめられるべく、親友同士に裏切りを迫るような状況から始まるのですが、まさにこれこそ、会社を倒産させた時の手塚治虫自身の立場だったのではないでしょうか。手塚治虫の作品は一見甘いものに思われますが、読めばえげつないほどのペシミスティックな色彩にあふれています。それは手塚治虫の思想信条というよりも、むしろ体験からくるものなのかもしれない、と、背景となる事情を読むと思ったりもしてきます。
次の日の内容
スポンサーの意味とキャラクターグッズのビジネス展開と作品 ~ロボットアニメの制作費とスポンサーとしてのおもちゃ会社の意向と制作者の役割と葛藤 - 日々是〆〆吟味
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手塚治虫あれこれ…原稿、締め切り、逃亡、執筆 〜手塚治虫の漫画の描き方と締め切り破りの逃亡癖に代筆デビューの可能性や漫画の置かれた状況 - 日々是〆〆吟味
お話その63(No.0063)