商品の物語化 〜主人公はあなた(商品)です!
商品を買ってもらうための方法はこのように色々あるのですが、そろそろ私の知っているものも尽きてきましたので最後に物語ということだけお話ししてみようかと思います。
商品を売るにはイメージを結びつけるのだ、とは前にお話ししましたが、そうしたイメージの発展した形として物語/ストーリーを作り上げるというものもあります。
物語内の役割とイメージ化
商品を物語にしてしまう、とはどういうことでしょうか。まず一番簡単な物語の中にいる人、つまり俳優や役者を考えてみましょう。役者はドラマや映画の中で特定の役を演じますが、その役のイメージが強烈すぎますと、役者自身もそんな人物なんだと誤解されることがままあるといいます。これは役者のイメージが物語というものを通して形成されたわけですね。しかし役者自身はそんな人物であるとは限りません。けれども演技者として自らを商品として演出家に売らなければならない側面も役者は持っています。そうした時、役のイメージがついた役者は、特定の役柄に対する強い商品価値を持ったともいえます(逆に邪魔するともいえますけど)。未だに佐野史郎は冬彦さんのイメージがつきまとっていますものね。
このように物語、フィクションの中で特定の役柄を演じさせることによって、その演技者までをイメージ化させてしまう手法は広告としても使うことが出来ます。役者は不可避的にどうしてもそうしたイメージ化から逃れられませんが、その役割を果たしてくれる商品を役者の代わりに配置すればいいのです。
けれどもこれは難しいですね。人間は役になれますが、物はどうすればいいんでしょう。炊飯器を擬人化でもすればいいのでしょうか。それじゃ子供は買ってくれるかもしれませんが、大人は見向きもしてもらえないかもしれませんね。
では大人へも働きかける物語とはなんでしょう。
商品開発の苦労話
今炊飯器を例に出してしまいましたので炊飯器で考えてみましょう。最近の炊飯器の性能はとても高くなっているようですね。CMでもよく宣伝されていますし、家電を取り扱った番組でもよく説明されています(これ自体広告の一種でしょうね)。しかしこうした説明は炊飯器の機能について宣伝しているわけで、物語ではありませんね。
では炊飯器の物語とは一体なんでしょうか。それは新しい炊飯器を開発するために、いかに苦労したか、というようなお話しです。昔とても流行ったプロジェクトXの路線ですね。
これは確かに物語です。開発秘話は必ず存在するでしょう。そしてそれが苦労すれば苦労するほど、成功の体験は大きくなります。いわば物語の主人公として商品を置き、ラストに救済者として登場させる。そのお膳立てを開発スタッフが担い、散々に失敗する。その過程を消費者側が見る。これは類型的な物語構造を持ちますので、どのような場合でも物語化が可能です。
https://www.waka-rukana.com/entry/2019/07/05/060056
https://www.waka-rukana.com/entry/2019/07/08/193040
似たような物語を創作で考えてみますと『DRAGON BALL』のナメック星編なんかが近いかもしれませんね。悟空は大怪我を負い、クリリンや悟飯が苦労してギニュー特戦隊やフリーザと戦い足止めし、頼みのピッコロやベジータが駆けつけてくれるもあまりにも相手は強すぎる。最後の頼みの綱である悟空、そして超サイヤ人への覚醒が一縷の望みとなり、ようやく達成されてフリーザを倒す。物語の構造としては同じわけです(なんか書いてたら自分でも読みたくなってきたな)。
物語の持つ面白さの応用
この面白さは『DRAGON BALL』で証明済みなので、同じようにやれば商品開発の物語も面白くなるのは請け負いです。そしてこんな過程で作られたものなのか、と思わせて消費者に購買意欲を持ってもらうわけですね。
こうして物語は商品を魅力的に彩る広告の1つとしている使われるのでした。
気になったら読んで欲しい本
【大塚英志『物語消費論』】
この本に書いてあったか忘れましたが、大塚英志は当時流行っていたディスコを物語の観点で分析していました。ディスコというのは80〜90年代に流行った若者の遊び場だと思ってくださればいいかと思います(私もよく知らない)。
暗い室内で音楽をかけ踊るのですが、そのディスコをある店は宇宙から落ちてきた宇宙船であると設定して開業していた、と指摘しています。それはただ単に踊るわけでも遊ぶわけでもなく、宇宙船という別世界での出来事であり、また宇宙船が宇宙へと帰るまでのつかの間の出来事である、ということが暗喩されているというのです。そしてその設定はバブルという日本の状況、あまりに浮かれた世相、いつまでも続かないと思われる不安、しかしどうしていいかわからずに刹那的に楽しむ場所、どこかへ行ってしまうかもしれない、そのどこかは未来(=宇宙船)かもしれないがどこ(=宇宙)かはわからない、という当時の社会の在り方と一致していて、それを不時着した宇宙船の中、という物語性をディスコに結びつけることに成功したのだ、といいます。
今回お話ししたこととは別の形で商品を物語化することが可能というお話しですね。って、私はこの話などを読んで教えてもらったので、元ネタとなる本を是非一度手にとってみてください。でも、この話はこの本だったかなぁ。覚えてないんですが、比較的初期の頃に書かれたものだったかと思います。なら私が読んだ中ならこれだと思うんだけどなぁ〜。
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お話その120(No.0120)