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自我投影先としての人物とキャラクター ~あのキャラは裏切らない
スターと自我投影
フィクションと自我の関係について書こうと思いながら脱線ばかりですが、確か各界のスターは自我投影対象であって、複雑化した現代において作り上げることが困難な自我の代わりとしての社会機能だ、みたいなことを書いたような気がします。
https://www.waka-rukana.com/entry/2020/05/25/200051
https://www.waka-rukana.com/entry/2020/06/01/200057
【テレビ・タレント人名事典】
具体的人物としてのスターたち
こうしたスターの人たちはスポーツ選手だったり歌手だったり俳優だったりとするわけですが、それぞれ確固たる人物となります。長嶋茂雄だろうが矢沢永吉だろうが高倉健だろうが(やっぱり古い?)、それぞれ実在する人物です。もっとも、だからといって私たちが知ることのできる彼らの姿は皆メディアやステージ(球場、ライブ、銀幕等)の上での話で、隣近所の誰かさんのように知るわけではありません。そのため半分くらいは虚構の存在とも言えるかもしれません。少なくとも知っている情報は具体的に知るものよりも間接的に知るもののほうが圧倒的なはずです(それを具体的なものにしようとするとストーカーとかになっちゃうし、スキャンダリズムによって失墜させようとしてしまう。渥美清のやったように寅さんのイメージが強いと、それ以外の私生活を見せないようにするのが自然なのかもしれない。そしてそれを場に出たままやり通すとさんまや矢沢のように、どこまでが素でどこまでがタレントとしての姿がわからなくなるのかもしれない)。
そしてむしろこうした実像がわからないからこそ、見る者はスターを自分の投影先へと向かわせることが出来るのかもしれませんね。
【モラン『スター』】
(映画スターの分析らしいんですが、私はまだ読んでいません)
具体的と自我投影
つまり具体的なものが多すぎると、まさに自分の周りにいる誰かさんと比べてスターを判断してしまうのかもしれません。まぁそれも投影の一種のような気もしますが、自分の理想像よりも鬱憤を投影させてしまうわけで、これじゃスターよりヒール(悪役のこと)になってしまいます。
からっぽさと自我投影
そのため出来る限り自我投影されるべき役割を担うスターは具体的なものの少ない、ある意味からっぽの存在の方が都合がいいわけですね。そのためスターに限らずタレントは自分なりのキャラクターを身につけてそこから逸脱しないように気をつけたり、ちょうどよく自分をよく見せたりするようキャラクターを変更していったり、スキャンダルに気をつけたりするのでしょう。役者であれば事務所総出でスキャンダルから守ろうとするかもしれませんね。そういえば昔のアイドルはトイレも行かなきゃオナラもしない、なんて言われてましたが、これなんて過剰な具体性の抹消の表れかもしれません。
人間は具体的を必ず持つ
とはいえこうした人々はやっぱり人間です。アイドルだってトイレ行くし(当たり前だけど)恋人だっているわけです。しかしこうした具体性を伝えられると、ただ楽しく自分を投影させていたものがシャットダウンされたような気になって腹立たしく思われるのかもしれませんね。
【サルトル『実存主義とは何か』/100分de名著】
そういえばとにかく明るい安村が不倫スキャンダルがあった時街の声だかネットの意見だかで、不倫と知った時裸のネタに別の意味を見出して笑えなくなった、なんて秀逸なコメントもありました(でも安村さん盛り返してきたね。頑張って!)。こうした側面を踏まえてロンブー淳はゆるキャラの会社も立ち上げたそうですが、その時に確かゆるキャラはスキャンダルを起こさない、中の人が不倫してもキャラクターには関係ない、なんてもののわかったことを話されていた記憶があります(間違ってたらごめんなさい)。
完全虚構の、具体性を欠いたからっぽの存在=キャラクター
さて、こうした具体性を欠いたキャラクターはなにもゆるキャラだけではありません。もっとわかりやすいところにそんなキャラクターはいますね。そう、アニメや漫画のキャラクターです。そして彼らはゆるキャラと同じくスキャンダルも起こしませんし、自我を投影させる者も裏切ったりしません。具体的な人物=人間とは異なり最初っから最後まで虚構の存在です。そしてそうしたキャラクターこそ自我投影させてしまえば、いくらでも具体性を見せることなく安心して自我を預けてしまえることになるのかもしれません。
【東浩紀『動物化するポストモダン』】
(思想家東浩紀の出世作。データベース消費によってどのようにキャラクターが構築され消費されていくかが書かれてる)
これが案外今の世の中のあり方なのかもしれませんね。
次回のお話
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お話その205(No.0205)