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田舎/共同体から都市/社会への移動と価値観の変化
人間が田舎/共同体から都市/社会へと移動するとどのようなことが起こるでしょうか。ひとつは生まれてから今日まで培った価値観や関係性を喪失してしまうことがあげられるかと思います。
生まれ持った環境の価値観と人間の精神
たしかフロイト大先生も書いていたんじゃないかと思いますが(忘れた)人間の精神は幼少期に与えられた影響によって大きく変わってきます。とりあえずこれをそうだとここでは認めてみましょうね。こうした幼少期から作り上げられた精神が無意識としてその人の精神の前提となる、とも一応考えておきましょう。
これを動物で考えると刷り込みというやつがありますね。生まれてまもない雛が初めて見たものを親だと思ってしまうというやつです。これと同じように人間の精神も自分が育ってきて受け取ってきた価値観を基本的に正しいものと受け取るかと思います。たとえば戦士の民族であれば敵を殺すことは名誉なことかもしれませんが、現代日本に生きている私たちの大半は人殺しなんてよくないもんだと思っています。それを戦争だからといって敵兵を殺せといわれても、はい、わかりました、と殺すことは躊躇されてしまうかと思います。それは私たちは近代的価値観のもと、相手も同じ人間じゃないか、という考え方をどこか無意識のうちに思い起こしてしまい敵を殺すことが出来ないのだと思われます。それをもし戦士の民族から情けないと言われても困ってしまいますね。だって敵だろうがなんだろうが相手は人間なんだから殺しちゃダメなのだ、と無意識で後ろ髪を引っ張られてしまうわけです。
生まれ故郷の価値観と、新しい都市の価値観
こうしたわけで人間はおそらく生まれ持った環境で与えられた価値観を正しいものとして無意識化するかと思います。言い方を変えればそうした価値観に縛られるのかもしれません。人殺しがよくないと躊躇している間に相手に殺されるかもしれませんし、その前に殺してもその後いくら自分の行いは正しかったと言い聞かせても罪に苛まれるかもしれません(戦場のトラウマというやつですね)。そしてこうした価値観はたとえ無意識化されていて縛られていても、そうした価値観を正しいと思い共有している人々との間ではなんの問題もありません。
しかしこれは共同体的な価値観の持ち方ですね。生まれてから死ぬまで同じ村で過ごすとすれば、こうした価値観は揺らぐことはありません。そんな必要すらありません。しかしこうした共同体から引き剥がされればそうはいきません。途端に今までとは違う価値観にさらされてしまいます。
引き剥がされる生得環境的価値観
そして近代による田舎から都市への大移動が行われることにより、こうした価値観の一致から引き剥がされることが起こりました。そして本来なら自分の生まれた村=共同体の価値観に従って生きていればよかった無数の者たちが都市という場で一堂に集められてしまいました。しかし都市はこうした余所者たちの集合でしかないので、かつての村=共同体のように綿々と続いてきた連続性のある習俗を持ちません。そのためそうして連続性から切り離された、表面だけを真似したやり方が各々のモデルとなってきたようです(でもこれは日本だけかもしれません)。となると連続性から生まれた合理性はなくなり、表面だけの真似から非合理的なものへと規範が変わっていくのかと思われますが、同時にかつての共同体によって定められていた規範も失われて個人の持つ欲望や願望が前面に出てくることになります。それを制御するべきモラルは共同体の持つ価値観によってなされていたので、そうした価値観がなくなることによってむしろ個人は野放図な自由を得たのかもしれません。
こうして大衆というものが歴史上現れてくるのでした。
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気になったら読んで欲しい本
ウィリアムズ『田舎と都市』
そういえばこんなおあつらえむきな本もありました。これはイギリスの文芸批評なのですが、とても高名な批評家の手によるものです。文学を通して社会の変遷を田舎から都市へ移動した者の姿を抉り取るようなものかと思います。といいつつ、これもまた私はまだ読んでいないのでした。
フロイト『精神分析学入門』
フロイト先生の本。一番最初に読むのはこれか夢判断かと思います。結構長いんですが、フロイトの考え方を全般にわたって自分で解説してくれているありがたい本です。面白いんですけど、幼児期の精神の影響はこの本に書いてあったかはちと忘れてしまいました。多分書いてあると思いますけどね。
見ると最近中公文庫で出なおしたみたいですね。でも一冊のようですから案外便利かもしれません。
ローレンツ『ソロモンの指輪』
動物の刷り込みはこちらのローレンツ先生から動物行動学という面白い学問を開いて観察の結果導き出したもののようです。ローレンツはノーベル賞ももらったとても偉い学者なのですが、一般向けにもとても面白い動物エッセイを書きました。この本がその代表作で、刷り込みについても少し書いてあったかと思います。動体好きの方がいらっしゃればぜひとも読まれることをおすすめします。絶対面白いですよ。
ローレンツ『動物行動学』
で、ローレンツ先生の学問上の論文集。私は読んでいません。もともとは単行本で4冊だったのですが、文庫にあたって収録数を減らして上下巻にしたようです。一応文庫版を載せておきます。全部読みたい方は単行本で探してみてくださいね。どちらにせよもう古本屋でしか手に入らないと思います。
『エッダ』
有名な北欧神話の原典ですが、神さまたちはともかく人間たちはひたすら復讐ばかりしています。ぼこぼこ、ぼこぼこ復讐のために人を殺していますが、それを可能にするまったく違う価値観が存在してたんだろうな、と少し想いを馳せてみたりもしますね。
神島二郎『近代日本の精神構造』
日本の村と社会の価値観の違い、というかその相互関係からどうやって日本社会の価値観が生まれてきたのか、ということが書いてあります。極端にいえば村の価値観が根っこを切り落とした上で日本全体の価値観になった、とでもいえばいいでしょうか。ですから上に述べたことはこの本からの内容ですので、日本以外でも同じなのかはわかりません。
パーク他『都市』
と思っていたら、この本には都市で昔のような価値観がなくなった、というようなことが書いてありました。アメリカの都市を扱っているので、別に日本だけでなく都市化したところではどこも一緒なのかもしれませんね。
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お話その151(No.0151)