日々是〆〆吟味

自分で考えていくための参考となるお話や本の紹介を目指しています。一番悩んだのは10歳過ぎだったので、可能な限りお子さんでもわかるように優しく書いていきたいですね。

ダーウィンの進化論へと影響した思想や本と社会理論:自身の見聞、ライエルの地質学、そしてマルサス『人口論』と社会ダーウィニズム ~進化論の社会起源と再社会学化による誤用の定着と意味

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前回のお話

https://www.waka-rukana.com/entry/2019/11/15/070054

 

ダーウィン進化論の3つの土台と、進化論の社会適用について

ダーウィンは進化論を生み出すのにいくつか土台としたものがあったようです。ひとつは自分で見た未開地の動植物の様子、もうひとつは先輩にあたる地質学者のライエルという人の考え方、そしてもうひとつにマルサスという経済学者の考え方です(多分これであってると思います)。

 

1.『ビーグル号航海記』におけるダーウィン自身の見聞

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ダーウィン自身の見聞は『ビーグル号航海記』として本になっています。当時博物学者たちはこうした船に乗って未開の地を調べに行っていたみたいですね。それもかなり長いもので何年もかかって行くようです。そのため簡単なものではなく政府の出す軍艦に学者代表のような形で乗せてもらったようですね。いわば国家プロジェクトの一環のようなもので、現代ならスペースシャトルに乗って月を調べに行くようなものでしょうか。ちょっと近未来すぎるかな。

 

ダーウィンと別に進化論を考えたウォーレスという人もこうした旅をしたのですが、大学出ではない独学者なのでとても苦労して行ったそうです(代わりに話はとても面白い)。

 

2.地質学者ライエルと、その本『地質学原理』

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ライエルという人の地質学はなんでも地層の説明をしたものだそうです。化石を発掘することは昔からあったようですが、その出てくる地層がなぜ違うのか、また地層によって出てくる化石(=生物)が違うのはなぜか、そうしたことはわからなかったそうです。そのため神学的な解釈で、神がそう作ったからだ、というものがまだ残っていたらしいのですが、ライエルはそれを時代区分にわけて説明することに成功し、今日の理解の仕方を整えたのだそうです。

 

これは地層を固定化したものではなく歴史的に捉えた、ということでしょうね。それを地層ではなくて生物に当てはめると生物の歴史的変化、すなわち進化論になるんだと思います。

 

この本をダーウィンはビーグル号に乗り込む時に持参し読んでいたそうです。それだけでなく直接の友人(というよりダーウィンにとって先達の師でしょうか)でもあり、ダーウィンがまだ十分ではないと思われた進化論について、せっついて書かせたとかも読んだ覚えがあります。いわばライエルは進化論を大きな下支えした人物なんですね。

 

3.経済学者マルサスの考え方と、その本『人口論』

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マルサスの経済学、というよりも若き日の著作に『人口論』というものがありまして、これがダーウィンの進化論のアイデアのきっかけになったと言われています。ではどういう考えかといえば、人間は子供を産むけどその速度は1.2.3…と増えて行くのに対して、その時必要となる食料は2.4.6….と増えていく、というものです。ここからマルサスは食料には限りがあるから子供を産むのは制限しろ、と言うのでした。

 

こうした考えからダーウィンは自然淘汰の考え方を生み出すのにかなり役立ったらしく、マルサスの持つ考えから限られた食料→食料の奪い合い→弱肉強食→自然淘汰とでもなったのかもしれませんね(ダーウィンがマルサスからどう発想したのか、直接どう書いていたのか覚えていません)。

 

進化論の社会科学的側面 〜マルサスの無慈悲な自己責任論

ここで問題なのはマルサスの考えです。というのもダーウィン自身の見聞(観察)やライエルの考えは自然科学なのですが、マルサスは経済学者なので社会的な考え方なのですね。それもマルサスの『人口論』は当時とても評判が悪かったようです。

 

というのも、当時イギリスでは貧民層が増えてきてその対策に追われていたそうです。なんとかしようと救護院などが作られたのですが成果はかんばしくありません。そこでマルサスは人口が増えれば食料が足りなくなるから、貧困や他の理由(戦争とか飢餓)で人が減るのは別にかまわない、といった考え方をしたようだからです。

 

貧困が起こってきたのはもちろんイギリスで資本主義が発達してきたからです。かつての社会秩序の中にあった生活が崩れて安く買い叩かれる労働者へと多くの人が転落したからですね。昔なら職人から親方になり家族を養えていたのが、大量生産によってそんな生活スタイルができなくなったからです。それをなんとかせねば、と多くの人が対策を考えている中マルサスは別にいいじゃん、と言ったわけですね。その理論的背景として人が増えすぎると食べ物がなくなる、と考えたわけです。別に貧困で勝手に人が死ぬなら食料枯渇しなくてむしろラッキー、とでもいったところでなんでしょうか(こう書くと無茶苦茶になっちゃいますね)。

 

しかもマルサスはこうした対策をしている人たちに対する批判として書いているのですが、その時貧困層は本人が無気力かつ怠惰でやろうと思えば出来るのにやらないからそうなったんだ、というような言い方もしています。そう、自己責任論ですね。そしてマルサスが批判している人たちはいわば当時のお人好しな左翼とでも言えるような批判の仕方で、読んでいると現在とあまり変わっていない対立構造に見えてきます(もちろん左翼って言ってもマルクスが活躍する前ですからマルクス主義じゃないですよ)。

 

つまりダーウィンが参考にしたマルサスの考え方は最初から自己責任論の弱肉強食の考え方なのですね。ダーウィンだとそれを人間の世界であれば理性によって避ける方法を見つけ出せるかもしれないが動物の世界であればそんなことないだろうからそのままになってしまって自然淘汰へと至るだろう、といったところでしょうか。

 

社会科学的起源の進化論の社会適用=弱肉強食の自然科学的正当性の僭称

さて、そんなダーウィンの進化論を自然淘汰として捉えて社会ダーウィニズムへと転じてしまえばどうなるでしょうか。そりゃもともとのマルサス主義の変種として出てくるのは不思議ではないですね。つまり弱肉強食の自己責任論です。なぜならばそもそもマルサスの考えは社会についての分析と理論でした。それをダーウィンは生物を理解するために使いました。それを社会へと当てはめなおしてみますと、もともとの社会についての考え方に戻ることになるのは当たり前かと思います。しかも一旦自然科学の真理として確立されていますので、客観的正しさを持っているように思えてしまいます。しかしその先祖は最初から社会的弱肉強食の考え方なので、社会ダーウィニズムも弱肉強食の考え方になるのは当然のように思えてきますね。エンゲルスなんてこれを非常に怒っていたことがあります。

 

そして面白いことにマルサスもダーウィンもスペンサー(前回の見てね)もみなイギリス人なのでした。それはおそらくイギリスこそ最初に近代資本主義が成立した場所だからであり、その地域と時代によって培われる考えというものがきっとあるのだろうな、と少し思うのでした。

 

次回のお話

https://www.waka-rukana.com/entry/2019/11/20/190032

 

気になったら読んで欲しい本

ダーウィン『ビーグル号航海記』 

ダーウィンの航海記。ダーウィンがいかにして進化論のアイデアを得ていったのか書かれていたかと思います。有名なガラパコス諸島での考察もあったかと思います。でも随分前に読んだんで忘れてしまいました。

ライエル『地質学原理』 

ライエルの本。なんとまぁ、こんな科学の古典も翻訳されているんですね。結構最近になってからの翻訳ですね。内容は読んでいないのでわかりません。でもきっと私は読んでもわからないんだろうな。

マルサス『人口論』 

マルサスの本。保守的な内容と言っていいかと思いますが、世界の名著だとエドマンド・バーク(保守主義の考え方の出発点となる人)と一緒になっています。

でも昔は食料が足りなくなるから子供を産むな、と言っていたのが今では経済回らなくなるから子供産め、と変わっていっているのが面白いですね。けどどちらも社会がうまくいくようにお前らあわせろ、と言っているようで案外根底は一緒なのかもしれません。少子化が叫ばれて長い今日、子供減る方が世の為だと考えた保守的イデオローグに目を通してみるのも面白いかもしれませんね。

ダーウィン『種の起源』 

ダーウィンの進化論の本。今回は岩波文庫で揃えてみました。上の本たちの影響のもと生まれたと思って読むとまた違う面白さが浮き出てくるかもしれませんね。

田中実,山崎俊雄,今野武雄『自然科学の名著100選』 

ライエルの本とダーウィンとの関係はこの本に書かれていたのかな。私は多分単行本版で読んだ覚えがあります。あまり知らない自然科学分野の古典的な本が載っているのですが、古代ギリシアから選び出しているので視野が広いです。そして意外なことに結構翻訳もあるのでした。この本で色々な本を知りました。面白いブックガイドですよ。

 

ウォーレス『マレー諸島』 

ダーウィンとは別に進化論を考え出した同時代の博物学者の旅行記。とにかく面白い。当時はヨーロッパにとって未開の地がたくさんあったので様々な生物の新種を見つけてます。剥製も高く売れたようで本国へオークションのために売ったり、途中で仕留めたオラウータンの子供を育ててみたり、帰国途中で極楽鳥を死なないように細心の注意を払いながら帰ったり、その極楽鳥のエサのためにバナナを買ったが船内にいるゴキブリの方を美味しそうに食べるので船内でかき集めたり、そうして安心してたら次に乗った船が新造船でゴキブリがおらずあわてて途中で立ち寄った港で他の船からゴキブリ集めてきたり、とエピソードにことかきません。分厚い上下巻の本ですが滅法面白く冒険ものの小説より面白い本です。

ちなみにその極楽鳥は生きてイギリスまで帰ってしばらく動物園の人気者だったそうです。

エンゲルス『反デューリング論』 

エンゲルスが社会ダーウィニズムに怒ってたのはこの本だったかな。結構やっかいな本で、当時名をあげてきたデューリングという人に対する批判として書いてあるのですが、デューリングが広範な領域で活躍しマルクスたちを批判したものですから批判も広い範囲となり、結果マルクス主義を広く説明したいい解説書になってしまったという、よくわからん本になっています。論争の本なのでわかりにくいところがたくさんあります。デューリングは結局思想史的には無名の哲学者になってしまったらしく、おそらく翻訳はなさそうです(科学史の本を読むとそうでもなく、デューリングはマッハの力学史に先立つ立派な仕事をされたそうで、優れた学者だったそうです)。論争なのに一方しか読めないのでわかりにくくても仕方ありませんね。マルクスやエンゲルスは当時から敵が多かったみたいでこんな本がよくある気がします。

そしてこの本の経済学について批判しているところで、ダーウィンの自然淘汰の考えを社会に当てはめるのはもともとのマルサス主義になるだけだ、って書いてあったんだったかな。

 

関係ありませんがマルクスとマルサスってややこしい名前ですよね。なにも同じ経済学の中でこんな似た名前でなくてもいいのにね。

 

次回の内容

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お話その133(No.0133)