社会学としての宗教
ある価値観を生み出してひとつのカテゴリーにしてしまうような働きが民族宗教にあったとして、ではその働きは宗教にしかないのかといえばそんなことなさそうでした。となるとこれはなんでしょうか。それは社会現象のひとつだ、と考えれば社会学の対象となれそうですね(そんなわけで社会学が扱う宗教は信仰や救済じゃないんです。あ、私の知ってる限りでですけどね)。
デュルケームの社会学
そんなわけでデュルケームは宗教を対象として社会学しました。この時対象にした宗教は、確かオーストラリアのアボリジニのもつ宗教だったと思います。ユダヤ教よりももっと原始的な民族宗教ですね。少なくともエジプトやローマ、近代ヨーロッパのような世界史的な文明圏の大都市とは違います。代わりに文明に影響されてない宗教の元々の姿を持っている、とも考えられますね。こうした考え方から人類学は生まれたようです(そしてデュルケームの方法を使った人類学は社会人類学というそうです)。
それでデュルケームはどのような風に考えたのでしょうか。いつもの通りデュルケームの考えなど私には説明しきれないので、ここでわかればいい程度にしか説明できません。それに記憶で書くので間違ったところもたくさん出てくるかと思いますが、とりあえずやってみたいと思います。
未開部族の非合理的なトーテム神
まずデュルケームが対象とした宗教は未開部族のものでした。そのため当時のヨーロッパから見れば非合理なものとして映りました。そのひとつにトーテム神というものがあったようです。それは自分たちの部族がオオカミとかフクロウとかの部族である、とみなし、かつ自分たちの部族はそうした動物と同じである、という風に考えるようなものだそうです。
これを当時のヨーロッパ人は馬鹿にしたようです。あいつらは自分たちが人間か動物かの区別もついていない、というわけです。以前アリストテレスの蛮族観を紹介しましたが、2000年たって同じ認識を有しているわけです。怖いですね、人間の考え方というのは。基礎づけられたものからなかなか動かないようです。
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社会的事実としてのトーテム神と集合表象
こうした考え方に対してデュルケームは違う見方をしました。未開部族の者たちがトーテム神を祀り崇めているのは非合理ではない。それは我々(ヨーロッパ人)から見て非合理なのであって、彼ら(未開部族)からすれば合理的なのだ。なぜならばオオカミやフクロウを神として祀り、自分たちの部族も同じようにオオカミやフクロウだと思うのは彼らにとって社会的事実だからだ。社会の中にはひとつの共有すべき価値観が存在していて、その内部の人間はそうした価値観に従って生きている。そうしたものを集合表象(もしくは集団表象)と呼ぶ。
とまぁ、こんな感じでまず考えました。つまりこの場合は、民族宗教は自分たちの価値観から作り上げたものである、という考え方ではなく、そこに既に存在している価値観は社会的事実であってその中にいる者にとってはなんらおかしなものではない、という風に考え方を転換させたのですね。そしてそれはその集合表象の中にいるものであればどのようなものも当たり前のことであり疑問にも思わないが、その外=余所者から見れば一切合理的な説明がなく非合理極まりない狂気の沙汰に見えてしまう、ということにもつながってくるかと思います。
気になったら読んで欲しい本
【デュルケーム『宗教生活の原初形態』】
上に書いたような考えをデュルケームが書いた本。私の説明は自信がないので、興味をもし持たれましたら読まれることをお勧めします。とても面白いですよ。
昔は岩波文庫からしか出ていませんでしたが、最近になってちくま学芸文庫からも出ました。私は岩波文庫版しか読んでいないので、どちらがいいかは判断出来ません。でもちくま学芸文庫版は表紙が綺麗です。ちくま学芸文庫は最近もデュルケームの『社会分業論』が入りました。実にありがたいことです。デュルケームの主要な本はみな文庫で手に入り、社会学の中ではもっとも手に取りやすい古典な気がします。一応載せておきましょうか。
【デュルケーム『社会分業論』『自殺論』『社会学的方法の規準』『道徳教育論』】
これだけ読めばデュルケームは大体把握できるんじゃないでしょうか。それぞれの本については、また書く機会があれば書いてみたいと思います。面白いんですよ。
なんだかデュルケームの文庫一覧/リストみたいになってしまいましたね。これはこれで便利かもしれません。
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お話その88(No.0088)