前回のお話
https://www.waka-rukana.com/entry/2019/11/18/190034
オウエンの労働環境改善とその現状への態度 〜カイゼン主義者オウエンと政治家の反応、及び子供の扱い
社会ダーウィニズムとか自己責任論とか今も昔も言ってることはあまり変わらないなぁ、とその頃の本を読んでいると思わないでもないのですが、今から考えてみますと相当にえげつないことも書いてありますのでちょっと今回お話してみましょうね。
オウエンの工場改革 〜工場環境と対策内容
エンゲルスが空想的社会主義者として括った人にオウエンという人がいます。しかしこの人は空想的というイメージとはかなり異なります。というのも実践家だからです。
オウエンは当時あちこちに出来ていた工場の経営者でした。勃興しかけていた資本主義の運動の中でうまくのしあがった人の1人なわけですね。しかしオウエンは周りの工場主と違ってとても立派な人でした。あまりに酷い工場労動を改善することに力を注いだのです。そしてその時にあちこちに働きかけ政治家とも交渉し酷い工場労動を規制するための法律を作ったりするのに尽力しました。
たとえば当時工場で働かせていたのは子供でした。それも今なら未就学児童とでも言えるような年齢から働かせていて、しかも1日の労働時間は10時間以上でした。そのうえ労働環境は最低で換気はなく空気は悪い。それが原因で病気になっても知らぬまま。それどころか仕事場を離れないように数人の大人が見張っており、少しでも手が止まれば鞭で制裁を加えたといいます。まるで『カイジ』が連れ去られた地下みたいな話ですね。
これをなんとかしようとしたオウエンは自分の工場では様々な改善をして解決しました。工場の周りに集落が出来てその中で労働者は生活するのですが、そこで幼稚園を作ったり労働時間を減らしたり周りに影響されるから大人たちも教育出来るような環境作りをしたりと色んな手を尽くしました。そのためオウエンが考え出したアイデアは今日まで残っていて、幼稚園を始めたのもオウエンですし、サマータイムというものもオウエンのアイデアです。あんまりえげつない労働環境ですから、夏の盛りは避けさせようとしたのでしょうね。
労働環境改善への社会的働きかけの内実 〜問題なしとされる政治的判断
とりあえずオウエンは自分の工場では成功しました。しかし当然のことながら自分以外の工場の方が多いわけです。そこで社会改良運動のような形で労働環境自体をよくしようと行動していくのでした。
そこで子供を換気もない劣悪な環境で鞭で縛るような形で朝6時から夜12時まで(だったかな)働かせるような真似はやめさせようとし議会に提出するのですが、業界団体に支持された政治家はまったく耳を貸しません。子供がそんな環境でその時間働いても一切健康に問題がない、という資料を提出しオウエンの訴えを退けたりもしました。
またオウエンがこうした運動をしている中で、とある立派な政治家と出会います。そして街に溢れる失業者たちをなんとかしたいと訴えるのですが、私なら同じ状況にいたとしてもなんとかする、といって終わりにされてしまうのです。オウエンはその政治家は確かに実力者で自らの力で現在の地位を手に入れたが、そのために誰でも自分と同じようにしてしかるべき地位につけると考えすぎている、と述懐します。
なんといいますか、今と変わりませんね。社会に問題あってもそれは問題ないと資料を使って平気で説明し否定したり、自分ならうまくやる、なんて自己責任論そのもので、ブラック企業とみなされたある社長さんも同じようなこと言ってました。そういえばフランスで暴動が起きた時、マクロン大統領も訴えに来た失業者代表にそう言ったとかニュースで見た覚えがあります。こんなこと言ってるからオウエンみたいな改良主義者みたいな社会主義じゃなくって、革命的なマルクス主義が出てきたのかもしれませんね。
次回のお話
https://www.waka-rukana.com/entry/2019/11/21/190036
気になったら読んで欲しい本
『オウエン自叙伝』
オウエンの自伝。読むと面白いんです。
なんだかオウエンのやってることは社会主義というよりも、トヨタの改善運動みたいに私には読めてしまいました。工場にある問題点を見つけてそれをどうやってなくしていくか。それを仕事としてだけでなく職業環境そのものから変えていこうとする態度とやり方は、社会主義という見方よりも経営者としての見方で捉えた方がしっくりいく気がします。
たとえば労働環境が劣悪であるために労働者の間では盗みが日常化していた、と書いていますが、これは個人間で盗みが横行しているということではなく、工場の資材や道具を盗む、というようなことのようでした。それは会社の備品を個人のものではないから、という理由で杜撰に扱ったり黙って持って帰ったりしていることと捉えれば現在でも普通に行われている可能性のあることだと思います。それを会社(工場)への盗みとしてだけ叫び処罰するのではなく、いかにしてそれが間違っているかということを説き、そうした行為をする労働者の環境から変えていこうとしたオウエンのやり方は、どうも私には社会主義者としてよりも経営者として思えてきます。実際どこかで立ち読みしたオウエンの解説書には、空想的社会主義者と括られる3人のうちオウエンは根本的に他の2人(サン・シモンとフーリエ)とは異なる、と書いていたことがあります。私はその説明に納得してしまいました。
まあそれでも社会主義者ですからね。拒絶反応を示す人は多いかと思います。それでもこれは自伝ですから起伏に飛んだ面白い人生録として読まれても面白いかと思います。
あぁ、そうそう、オウエンは一応著作リストを作ったことがあります。興味あればご覧になってみてください。
https://www.waka-rukana.com/entry/Owen
次回のお話
https://www.waka-rukana.com/entry/2019/11/21/190036
前回の内容
https://www.waka-rukana.com/entry/2019/11/18/190034
お話その134(No.0134)