日々是〆〆吟味

自分で考えていくための参考となるお話や本の紹介を目指しています。一番悩んだのは10歳過ぎだったので、可能な限りお子さんでもわかるように優しく書いていきたいですね。

【ユダヤ教とは何かわかりやすく】普遍性のある世界宗教の前段階としての民族宗教:ユダヤ教の場合 ~多神教と異なる特異な一神教を生んだ時代の敗北者としてのユダヤ人

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普遍性の前の民族宗教:ユダヤ教の場合 〜いじめられっこのユダヤ人

普遍性としての世界宗教

ただ、普遍的な思想とみなされるものは、やはりそれ相応の理由がある、とも考えられます。柄谷行人が世界宗教を普遍的とみなしていましたが、それは他の民族宗教と比較してそう考えられるわけです。

 

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共同体的な民族宗教

では民族宗教というものがどのようなものか、といえば、どうも自分たちを説明し正当化(もしくは正統化かな)するもののようです。これは余所者と比べて自分たちがいかに違うか、ということを神話的に説明しているようなものを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。

 

ユダヤ教徒特異な一神教

たとえばユダヤ教は民族宗教ですが、キリスト教やイスラームというセム系一神教というものの母体になりました。これらの特徴は強烈な唯一神を祀る一神教だということです。しかし、実はこの唯一神という考え方自体がかなり歴史的に特異な出来事だったようです。というのも、普通神様というのはそれぞれの民族の間で自然を擬人化し説明するための神話として現れてくるので、自然現象に倣って多神教であることが当たり前なのだそうです。その中で主神とされる神様が選ばれるわけで、他の神様を排して一人だけの神様、というのはユダヤ教以外には現れなかったそうなのです。ギリシア神話や北欧神話でも雷神はゼウスやトール、主神もゼウスやオーディンであって、他に神様はたくさんいますからね。

 

敗北者としてのユダヤ人

しかし、ではなぜユダヤ教では一神教が成立したのでしょうか。それはユダヤ人が民族として連戦連敗の敗北者だったからだ、というのです。とにかく迫害されまくった歴史を生きてきたそうです。それはつまり、現実政治の場で敗北者だった、ということのようです。常に戦争では負け、奴隷とされ、他人の土地でなんら権利を与えられることもなく、ぞんざいに扱われ続けた。そのような歴史だったようです。

 

概念内における絶対勝者としての唯一神

そのため、現実では勝てないユダヤ人は自分たちの神話の中で勝利者として振る舞いました。当然ユダヤ人が酷い目にあっている時も、その支配者層には独自の宗教があり、祀る神がいたわけです。しかしユダヤ教ではそれらは本物の神ではありません。邪教であり、邪神です。そして真の唯一なる神は自分たちユダヤの神であり、それ以外にはいない。本当の神に選ばれているのは我々ユダヤ人であって、他の民族は偽物の神を崇めているだけにすぎない。こう考える=神話化することによって、自分たちの酷い状況を頭の中で乗り越えようとしていたのだそうです。

 

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そのためユダヤ教では神は唯一神でなければなりませんでした。なぜなら、他の神は全て偽物だからです。これが戦争で勝てる民族であればこうはならず、勝った方が負けた方の神様を自分たちの下とみなして神話の中に取り込んでしまいます(そのため神様の関係はちょっと突っ込んで読むと複雑怪奇なわけのわからないものになっています)。けれどもユダヤ人は勝つことのない絶対的な敗北者だったためにこうした神様の序列化をすることが出来ませんでした。つまりナンバーワンになれないのでオンリーワンにしてしまったわけです。

 

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なんだかこんな説明をしてしまいますと、自意識過剰な中学生がまことしやかに自分の経歴を偽作してしまうような態度にも思えてきます。今で言う中二病というやつでしょうか。しかし実際に中学生の時に自分の神様を作り上げて、その生贄のために本当に人殺しをしてしまった酒鬼薔薇聖斗のような人もいました。もしかした本当に一脈通じるものがある可能性も、私は否定出来ない気がします。

 

唯一神という世界史上稀有な概念

ともかくユダヤ教はこうして唯一神という世界史上稀有な概念を生み出しました。これがユーラシア大陸の西で圧倒的な発展をし、世界中を席巻することになります。しかし、ではユダヤ教と他の世界宗教とではなにが違うのでしょうか。自信ありませんが、次また考えてみましょうね。

 

気になったら読んで欲しい本

【橋爪大三郎,大澤真幸『ふしぎなキリスト教』】 

ユダヤ人が連戦連敗の敗北者、という説明はこの本の中で橋爪大三郎が発言してたんじゃないかと思います。昔ベストセラーになりましたから読んだ人も多いかもしれませんね。キリスト教の入門を対談形式でやったものですが、その起源としてユダヤ教についても話していたんだと思います。

【ウェーバー『古代ユダヤ教』】 

で、多分元ネタの一つはこの本かな、とも思うので載せておきます。2人とも社会学者ですから当然ウェーバーの宗教論を踏まえているでしょうし、直接間接関わらず必ず影響があるかと思います。ウェーバーは宗教自体を社会学の対象とし、古典的な業績をたくさん残しましたのでとてもおすすめです。ただ、劇的に難しいです。なにせウェーバー先生ご病気でしたので、文章が非常に乱れているのだそうです。ウェーバーを訳した清水幾太郎と大塚久雄もそう述べておりました。

ウェーバーはユダヤ人を指して根っからの賎民であると書いていたかと思いますが、その徹底した抑圧が世界史的なバネになったのかと思うとなにがいいのかわかりません。宮台真司がよくひくヘーゲルの理性の狡知というやつでしょうか。敗北者がそのまま敗北者であるのかわからない…なにかこれも歴史だけでなく人でも当てはまりそうですね。

 

【柄谷行人『探究2』】 

柄谷行人の世界宗教についてはこちら。前も載せましたね。他には他者に対して単独者というものも考えています。やっぱり面白いと思うけどなぁ。

【呉茂一『ギリシア神話』】 

で、他の宗教の例としてギリシア神話の、おそらく日本で書かれた1番優れていると思われる解説書。とても面白く、読みやすく、情報量が多いです。私は1番だと思っています。

これを読んでみるといかに宗教や神話があちこちの信仰をとりこんで混ざり合い、細かいところで矛盾を残しながらひとつの体系になっているのかが仄見える気がします。どの地域では誰それが信仰されていたらしいが、他の地域でもそうで、しかし形態が違い、また別の神の特徴が他の神のものとみなされ、被征服者の信仰の残滓が見える、などといった指摘がたくさんあります。テレビゲームなどでなれたシステム化された神話の世界とはえらい違いのややこしさです。文化の伝播や統一って、こんな難しいものなのか、と思わないでもありません。

ちなみに古い本でよく読まれたのかして、古本屋で安く置いてあることが多いです。これが老舗の文庫本のいいところですね。

 

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 お話その83(No.0083)