周縁としての日本と近代化、そして… 〜世界システムの中に位置づけられた日本
梅棹忠夫は大陸が歴史的に疲弊し、辺境であったヨーロッパと日本が近代において成長した、というような考えを示しました。この辺境という点において日本の近代化も考えの中に含んだとても偉い人がいます。ウォーラーステインという、なんともカッコいい名前の方なのですが、書いてることも戦車のように重量級で私には難しすぎます。とりあえずここで書いていることと関係しそうなところだけかいつまんで書いてみようかと思います。詳しくは直接ウォーラーステインの本を読んでくだされば幸いです。私、説明なんて自信ありません。
近代化と世界経済圏
ウォーラーステインはヨーロッパの近代化と共に経済圏が世界化=地球規模になったと考えました。今でいうグローバル化が始まった、というわけですね。大航海時代がはじまり、ヨーロッパ諸国が海を渡って世界中を支配していく時代です。それは政治的には植民地主義となっていきますが、経済的には世界規模で様々な商品が行き交う制度が成立したということになるようです。
中心と周縁の世界システム
こうした世界規模の経済状況を世界システムと呼ぶようですが、これは中心と周縁という形で二分化されるようです。当然ヨーロッパが中心で、それ以外が周縁ですね。そして中心は周縁から取れるものを買い取っては母国へと運び込むわけです。もちろん周縁国は植民地です。ですから好き勝手取って、安く持っていきます。そして自分たちで楽しく消費するわけですね。
もちろん近代初期は圧倒的にヨーロッパが強かったので、ヨーロッパから近ければ近いほどこうした態度を取られる可能性が高いわけです。中国やアフリカなどは丁度いい位置にあります。そのため自分たちが消費するための丁度いい原産国になります。となれば中心国であるヨーロッパ諸国は、そこから取れるだけ取ろうと政治的にも圧迫していきます。アフリカも中国も近代化が難しかった理由の1つとして、強すぎるヨーロッパ諸国からの干渉があったかもしれません。
中心地ヨーロッパから遠い日本の地理的条件
その点日本はどうだったでしょうか。中心であったヨーロッパ諸国から見て世界の反対側です。地球の裏側です。そのためヨーロッパから直接に干渉されることが難しかった地理的条件にありました。それに江戸幕府の方針から鎖国もしていました。鎖国は閉塞した島国根性を持続させ、進んだヨーロッパ諸国の文物を取り入れ損ねたということで日本では手厳しい評価でしたが、ウォーラーステインによればそうした鎖国をしていたために中心であるヨーロッパ諸国からの干渉からも逃れられたといいます。そして地理的に日本から近いアメリカがヨーロッパに増して強くなるに従って、日本へと圧力をかけてくるようになり開国となったのでした。アメリカは当時鯨油が欲しくて鯨を乱獲しており、その駐留地として日本を求めたのだそうです。となるとウォーラーステインの言う通り、中心がヨーロッパからアメリカに移りつつあり、日本が持っていた周縁としての利点がなくなってしまったことがわかりますね。そしてアフリカや中国がヨーロッパから取られるだけ取られたように、日本はアメリカから取られるだけ取られているのかもしれません。
ウォーラーステインと梅棹忠夫
ウォーラーステインの考え(というより理論)は世界システム論と呼ばれ、近代以降に起こった世界規模の経済圏の説明と分析にあてられ、日本のことはちょっと書かれているにすぎません。しかし日本をヨーロッパから遠い、周縁、つまり辺境であったことによって近代化を助けたという説明はちょっと梅棹忠夫と似てるなぁ、と思いもしたのでした。専門家はなんていうのかは知りません。多分私の印象は微笑んでくれるくらいの愛想は示してくれるかもしれませんね(素人相手ですからね)。
梅棹忠夫は大陸で考えましたが、ウォーラーステインは地球で考えました(しかも海でしょうか)。どちらも稀有壮大なスケールで考えていますが、その中に日本を落とし込んで捉えてみると日本が日本だけで成り立っているわけではなさそうなこともわかってきそうですね。ただウォーラーステインの考えでは世界システムは近代に成立したものであって、今以て続いていることになります。となると、現在の日本はどこにどのように世界システムに組み込まれていて、中心と周縁のどの位置に属するのか、ということも考えてみると面白いかもしれません。間違いなく中心はアメリカ以外には考えられないので、そのアメリカに対して日本はどのような周縁として生きていけばいいのでしょうね。
気になったら読んで欲しい本
【ウォーラーステイン『近代世界システム』】
ウォーラーステインの本。私が読んだのはこれです。しかしこれは第1巻で、未だウォーラーステインは続編を書いています(追記:ウォーラーステインは亡くなってしまいました)。かつては続編は別の出版社から出ていましたが、今は揃って一箇所から出ています。
巻数がローマ数字なので文字化けしていますが(追記:どうやら直ったみたいです)、今のところ4部作です。上から1.2.3.4巻です。5部作目が現在研究中のはずですが、おそらく同じ出版社からでる予定だそうです。
私は上の岩波版だけしか読んでませんので、この1部目だけですね。
ウォーラーステインの業績は世界的に高く評価されているそうです。土台となるのはフランスで起こったアナール学派と呼ばれる歴史学で、地理上の条件まで遡って政治的現象を説明するようなすごい歴史学です。ブローデルという人が書いた『地中海』という本が代表といわれます。これもすごい本でした。
また世界経済圏の研究という観点は、かつてマルクスが『経済学批判』で当初のプランとして構想していたものの最期の項目である、世界市場を継いだものともいえるかもしれません。
一応どっちも載せておきましょうか。
【ブローデル『地中海』/マルクス『経済学批判』】
説明は端折ります。だってできないんだもん。私の力を越えております。
次の日の内容
世界最古の文明における大陸による文化の接触 〜ギリシアとインドの思想/哲学/文化の相互関係、もしくは古代懐疑主義とインド行者の影響の可能性 - 日々是〆〆吟味
前の日の内容
【梅棹忠夫『文明の生態史観』】大陸の歴史と辺境であることの余力の意味 〜梅棹忠夫によるヨーロッパと日本の近代化の原因の分析 - 日々是〆〆吟味
お話その77(No.0077)