前回のお話
https://www.waka-rukana.com/entry/307/2021.02.19
組織とはどのような理念を掲げていようとも、構造的に必ず少数者によって支配される
現実知らずの理想主義
マルクスや共産主義というと、なんだか現実知らずのお人好しな理想主義者みたいな捉え方をされる方もいるかもしれません。しかしそうした見方は別段今に始まったものではないようで、戦前に書かれて本の中にもそうした文章はあります。
ただ理想主義者として文句を言う人も、どちらかといえばそうした紋切り型で批判することが多いかもしれません。ネットなんかだと特に具体的にどこがどう問題なのか、今イチよくわからないけどとにかく批判されている人もいるような気もします。
【小泉信三『共産主義批判の常識』】
(こんな本もあるのですが、残念ながら私は読んでいません。なんでもかなりしっかりした内容らしいのですが、せっかくですので共産嫌いの人もこれくらい読んで文句言ったらいいんじゃないんでしょうか。きっともっとよく批判出来るんだと思います)
もちろんマルクス主義に対して具体的に批判したものも古典の中にはたくさんあると思うのですが、その中で組織のあり方について面白い批判をされていた方がいました。
ミヘルスと社会主義的平等と政治組織の支配
それは政治学者のミヘルスという人で、社会主義の政治組織について書かれたものになります。ミヘルスが言うには、社会主義というのは万人の平等を求めるものである。しかしその組織は必ず平等とは反対の結果になる。
まぁこんな感じです。
【ミヘルス『政党政治の社会学』】
(ミヘルスの本はこれなのですが、非常に面白い政治の力学について書かれています。政治の持つ理念の側面だけでは気に入らない人は読んでみるといいかもしれません)
社会主義政党と少数の指導者
ミヘルスは当時の社会主義政党を分析したのですが、政党は政治結社であり組織であることから逃れられません。そのためどれだけ平等を唱えていても、組織体としては必ずピラミッド型の逆三角形の形をとるといいます。そしてもちろん、組織のトップはひとりであり、大勢の構成員というものはその下につくことになります。
これは平等を謳いながら、実態としては既存の他の組織と同じ、権力のヒエラルキー構造と何も変わらないことを意味します。そのため結局は社会主義体制(共産主義でもいいのかな)になっても、既存の権力関係となにも変わらないことを説明されています。
組織というものの理想と現実
ただここでポイントとなるらしいのは、たしかにミヘルスは社会主義の批判者だったかと思いますが、これは社会主義批判ということや理想主義への批判ということを越えているということです。つまりどれだけ理想的な目的や理念、理想を持っていたとしても、組織というものが存在するとそれは権力関係抜きに成り立たないということだろう、ということです(たしか解説にそんなことが書いてあったような気が)。
見方を変えると組織には組織というものの持つ、独立したメカニズムが存在していて、それは人々の持つ意識や想像というものとは別個に動いていく、ということかもしれません。もしかしたらこの辺りにマキャヴェリの持つ冷酷さというものの秘密もあるのかもしれませんね。
【マキャヴェリ『君主論』】
(ついでに載せてみました。なんでもミヘルスたち20世紀のイタリア政治学者を指して、現代のマキャヴェリと捉えた人もいたそうです。たしかにみもふたもないところは似ているかもしれません。しかしどちらも面白いことは違いないので、比べてどこがどうとか考えてみるのもいいかもしれせんね)
次回のお話
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お話その308(No.0308)