前回のお話
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終末思想とマルクス主義
マルクスの歴史観のうち唯物史観は歴史/社会を捉えるための原理的方法であったと思われるのに対し、階級闘争の歴史は未来に伸ばされた目的論のようになってしまっているようにも思えました。それはヘーゲルの歴史哲学に対するマルクスの態度のちょっとした角度の違いでもあるように思えるのですが、もうちょっと別の似たものもないわけではありません。
ユダヤ・キリスト教と終末思想
それがユダヤ・キリスト教と聖書の関係なのですが、聖書の最後には漫画やアニメ・ゲームが散々利用している黙示録というものがあります。どういうものかというと、この世は汚れてしまっているので一度滅んで、いつかイエス・キリストの直接統治する千年王国が訪れる、というようなものです。
日本のマンガ・アニメの終末論ブーム
これはファンタジー的な作品の常套句ですね。前世紀の末にノストラダムスの大予言というのがあって、世界が滅ぶという一種の期待感がありました。社会的には高度経済成長期からバブルに至る、急速に発展した日本社会への不安とアンチテーゼのようなものとして理解されました。それが80年代になると漫画などで散々ネタにされていきます。
【五島勉『ノストラダムスの大予言』ノストラダムス『予言集』】
(上に載せた本がノストラダムスブームの火付け役になった本らしいのですが、私はよく知りません。しかしふと古本屋を漁っていたら、岩波書店からノストラダムスのちゃんとした翻訳が出ていたので驚いたことがあります。ノストラダムス自身はルネサンス期のちゃんとした知識人のひとりであったらしく、権威ある岩波書店から翻訳が出ていたりもするのでした。ルネサンスには魔術師みたいなのが哲学者と分かち難い形で混じっていたそうです)
もっとも有名なのが『北斗の拳』かもしれませんが、これは199X年に核によって滅んだ後の世界が舞台です。こうした世界が滅ぶ、または滅んだ後の世界というのが想像力の定番でした。今だと異世界に行くようなものですね。他にも宮崎駿の『風の谷のナウシカ』や大友克洋の『AKIRA』のような世界的に有名な作品も、世界が崩壊した後の物語です。
【武論尊,原哲夫『北斗の拳』宮崎駿『風の谷のナウシカ』大友克洋『AKIRA』】
(並べてみました。これが同時代の作品であると考えると感慨深いものがありますね。この時代から比べて作品分野の評価は上がりましたが、作品自体はどれほど優れたものになったのでしょう。時代と表現ということで考えてみると面白いかもしれませんね)
ちなみに余談ですが社会学者の宮台真司は、こうした終末論ブームの中で、少年漫画は滅んだ後の世界を描き少女漫画は世界の崩壊を止めようとした物語を描いた、と述べました。少女漫画ではCLAMPの『X』が私には思い起こされます。
【宮台真司,石原英樹,大塚明子『サブカルチャー神話解体』CLAMP『X』】
(こっちも並べてみました。宮台真司はあちこちでこのことを書いていたかと思いますが、サブカルチャー分析を中心としていた分厚いこの本を載せておきます)
初期キリスト教と終末論
そしてこうした終末の想像力は初期キリスト教には強くあったようです。なにせ本物の迫害を受け、著名なキリスト教思想家がどんどん殉教していく世の中です。世の中がいつか転覆して終わると信じてもおかしくありません。それほど初期キリスト教の立場は酷かったようです。
【聖書】
(聖書の最後に黙示録があります)
しかし当然天使のラッパは鳴らされず世界の崩壊は起こりませんでした。そのためキリスト教徒はいつかそんな終末が訪れると信じて歴史の中を生きていくことになりますが、困ったことにそうしたキリスト教を、宗教は民衆のアヘンである、と啖呵をきったマルクスが共産主義革命における歴史観として同じようにいつか来る未来を設定してしまいました。
資本主義の末に現れる共産主義
もちろんそれには相応の理由があります。マルクスが分析した資本主義に必然の欠陥があって、その結果資本主義体制は自壊するであろうと予測されたため、その自壊した後の社会として共産主義が訪れる、というものです。そして実際今でもマルクスの分析した資本主義の欠陥は変わることなく、なんとかそれをやり過ごして傷を小さくすることによって今日まで資本主義体制は続いているのかもしれません。しかしそれは今生きている私たちにははっきりとはわかりかねるものです。
そのためマルクスの共産主義が訪れる未来の歴史観というものも、ユダヤ・キリスト教=宗教と似たものになってしまった、とも言われたりもするのでした。難しいお話ですね。
次回のお話
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お話その304(No.0304)