前回のお話
アリストテレスの思想/哲学とキリスト教神学の結びつきやすそうなところとあわなさそうなところ ~世界の始まりと根源からすべてを覆いつくす体系性 - 日々是〆〆吟味
中世におけるアリストテレスの影響と不一致
アリストテレスとキリスト教
アリストテレスがキリスト教の考え方とあまり一致しそうにないのは色々とあるそうです(あまり自信はない)。しかしアリストテレスは意外とヨーロッパ世界においてもずっと知られ続けていたわけではなく、中世になってからイスラーム経由で入ってくるまでは忘れられていたところもあります。その証拠として他の人の著作がアリストテレスのものとされていたり、イスラーム哲学の中で消化されたアリストテレス哲学のうちどこまでがアリストテレス自身のものでどこまでが注釈者によるものなのかがはっきりしていなかったともいいます。
アリストテレスと偽書
たとえば『原因論』という本があるそうなのですが、これはずっとアリストテレスの著作だと考えられていました。そのためアリストテレスの哲学について考える時はこの『原因論』も含めて考えることになるわけですが、これが実はプロクロスという人の『神学要綱』というものの翻案だったといいます。しかしそれがずっとわからずにいたのでアリストテレスに対する理解というものもねじ曲がってしまったわけですね。
【世界の名著『プロティノス,ポルピュリオス,プロクロス』】
(プロクロスの本はこちらに入っているそうです。私は読んでいません。この中には新プラトン主義の代表的な人たちのものが集められています。多分ここでしか読めないものもあるはずです。またアリストテレスのものとされていた『原因論』も翻訳があるそうなのですが、どうも検索しても出てきません。出てはいるらしいんですけど…)
プロクロスという人はアリストテレスよりもっと後の時代の人で、新プラトン主義というものの代表的な人物の一人になります。そして新プラトン主義というのは、文字通りプラトンという人の考え方を新しく発展させたようなものだと考えることが出来ますね(そんな説明では不十分なんでしょうけど…)。そしてプラトンはアリストテレスの先生でした。
プラトンとアリストテレス
しかしアリストテレスはプラトンの哲学に強く影響されていながらもかなり反発して自分の哲学というものを打ち立てました。そのため師弟関係にありながらプラトンとアリストテレスは根本的に違うところがあります(また逆に根本的に似ているところがある、とも言えるかと思います。それほどアリストテレスにおけるプラトンの影響は強いわけですね)。
【ロイド『アリストテレス』】
(こうしたことはアリストテレスの解説書の中に書いてあったかと思うのですが、どれかわからないのでとりあえずこれを載せておきます。内容は忘れました。ははは…)
アリストテレスの特徴としての経験主義
アリストテレスの特徴として、相当の経験主義的な側面というものがあります。この場合の経験主義というのは、ご町内の長老さま(いないか、もう)が、わしの経験によるとなぁ、なんていうのとは違って、物事の考えの結論というものを頭の中だけで考えたものだけで終わらせることではなく、直接事物に当たって確かめるような態度のことを言います。
その最も顕著なものがアリストテレスの動物学関係の著作になるのですが、これはちゃんと当時の動物を解剖したり、非常に熱心に観察した上で書かれたものでした。これは近代に入っても驚くほどの成果だったらしく、晩年のダーウィンが読んで驚嘆したというエピソードもあります。
【アリストテレス『動物誌』】
(これがそうなんですが、よくわからないで読んでいてもなんとなく楽しく読める面白い本です。やっぱり動物のことだからわからなくても楽しいんですね)
こうしたアリストテレスの経験主義的な態度は、しかしキリスト教中世世界ではなじみませんでした。なぜならキリスト教世界は神によって世界が創られたと考えるので、経験主義的な態度など相反するからです。そのため中世世界はアリストテレスのもうひとつの面、論理学を受けて発展していった側面があるようです。
次回のお話
中世におけるアリストテレスの問題点 ~版違いで異なる内容、イスラーム経由での歪み、別人の著作との混同、という様々な問題 - 日々是〆〆吟味
お話その259(No.0259)