前回のお話
ティコ・ブラーエの宇宙観とアリストテレスに沿った古い宇宙観
ティコ・ブラーエによって長年の年月により蓄積された天体情報ですが、それだけがあったからといってアリストテレス/中世的宇宙観が破られるわけではありません。データというものはデータでしかありませんからね。それを整理してひとつの観点から判断して、新しい世界観を築くことによって古い世界観は打ち破られるわけです。
さて、そのお話の前にもう少しだけティコ・ブラーエのお話を続けてみたいと思います。
ティコ・ブラーエと古い宇宙観
ティコ・ブラーエは確かにアリストテレス的宇宙観を打ち破るのに大きな役割を果たしました。しかしだからといってアリストテレス的な考え方から完全に離れて考えたかといえばそうでもないそうです。
というのも普通私たちが宇宙について知っているのは、地球が動いてぐるぐる回っているというものですね。いわゆる地動説というもので、それ以前は天動説というものでした。この天動説の元となる考え方がアリストテレスによって生み出され、プトレマイオスという人が体系化して中世後期まで続けられていたわけです(といってもアリストテレスの全体像がヨーロッパに知られたのはかなり遅いので、それまでどうだったのかは私は知りません)。
【アリストテレス『天について』,プトレマイオス『アルマゲスト』】
(アリストテレスの宇宙観とその体系化となるプトレマイオスの本。今調べたらアリストテレスは全集だけでなくて単独でも出てました。知らなかったな〜)
新しい宇宙観と地球の関係
となると、新しい宇宙観というものはガリレオが述べたように宇宙自体が回っているよりも地球自体が回っているものに変わっているように思ってしまいますね。けれどもティコ・ブラーエはそうではなく地球はじっとしているままだと考えたそうです。
ではどのように宇宙や地球の関係を考えたのかといえば、地球はじっとしているんだけど、太陽と色々な遊星がその周りを回っている、というものなのだそうです。なんだか天動説と地動説の間のような宇宙観だったようです。
第三の説としてのティコ・ブラーエ説
しかしこの考え方は当時結構大きなものだったそうで、アリストテレス的な宇宙観であるプトレマイオス説と地動説につながる有名なコペルニクス説と並ぶ第三の説としてティコ・ブラーエ説は有力だったそうです。
特にティコ・ブラーエは他の人たちにはない長期に渡る天体の観測データがありますし、またひとつの星について長期間にわたる観測というものもそれ以前にはされたことがなく、ティコ・ブラーエが初めて行ったそうで、それまでの理論とは根本的に方法論が違った側面もあるのかもしれませんね。そのためなのか当時相当の根拠を持っていたそうです(ただガリレオは自分の本の中では無視したそうですが、ニュートンが現れるまではかなり有力な宇宙観を述べたデカルトは第三の説として紹介していたそうです)。
【野田又夫『ルネサンスの思想家たち』】
(ティコ・ブラーエについてはこの本で読んだかと思います。タイトル通りルネサンス期の様々な思想家を集めて紹介されています。ティコ・ブラーエもその中のひとりなのですね)
しかしだからといってそのままにいきなり新しい宇宙観となって中世的世界観を打ち破ることにはならないのがなんとも面白いところですね。データと新しい発想があっても、まだ完全には世界観は変わらないようなのでした。
次回のお話
ケプラーの法則と新しい宇宙観を生み出したティコ・ブラーエの助手ヨハネス・ケプラー - 日々是〆〆吟味
お話その252(No.0252)