日々是〆〆吟味

自分で考えていくための参考となるお話や本の紹介を目指しています。一番悩んだのは10歳過ぎだったので、可能な限りお子さんでもわかるように優しく書いていきたいですね。

世の中の役に立つ仕事としての文学(小説/詩/批評) 〜ロシア・フォルマリズムの背景に置かれたマルクス主義の統一見解

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見解の統一とマルクス主義 〜土台の上に文化はのってる?

作品の統一的見解と強制

作品の統一的見解がなぜ可能なのか。

 

簡単に言えばそう強制されればいいのでした。

 

学校で行われる国語の授業などではそうですね。例題となる文章を前にして、作者がこの時どう思ったか答えなさい、こんな感じですね。なんでもどなたか作者がこれをやってみたら間違ったのだとか。作者自身が間違う作者の思いってなんなのでしょうか。それも簡単で、こうした例文がある場合はこう捉えろ、という強制なわけです。

 

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他の読み方をしてもいいのですが、学校の授業では答えがないと先生が教えられませんから他の読み方など認めません。それは先生が教えられないからで、おそらく国語の先生でも漱石や谷崎、賢治に芥川、と日本文学に通暁されている方はあまりいないと思います。教師の質が低い、と言ってしまえばそれまでですし楽ですが、文芸批評家の渡部直己は『必読書150』という本の中で、ここにあげているものの多くは古典中の古典だけど、大学の教員がどれくらい読んでいるのか心もとない、といったことを述べていたかと思います。つまり本当に根底から教えることが出来るくらいの素地は大学レベルの教師でも足りない、相当の水準を要求されてしまうのですね。そんなの全国に膨大にある小中高の教師全員に求めることなど出来ないわけで、結果教えやすい画一的な内容になってしまうのかもしれません。

 

しかしこれは学校教育における苦肉の策と捉えられないこともありません。

 

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問題は国家的にこうした強制がされてしまうことです。え、そんなことあんの、と不思議に思われるかもしれません。しかしロシア•フォルマリストたちが生きていたのはソ連時代のロシアでした。当然ソ連はマルクス主義国です。マルクスの見解を国是として国家を運営していきます。それがスターリンによって自分に都合よく解釈されたものであっても、掲げるものとしてはそうなのです。

 

マルクス主義と上部構造

マルクス主義の歴史観は面白いものがありまして、人類の歴史は階級闘争の歴史である、というものがあります。また唯物史観というものもありまして、経済状況の上に文化や政治ものっかってる、という風に考えました。そしてマルクスの時代には資本主義の勃興期ですから、資本主義という土台の上に資本家たちに都合のいい文化や政治もある、と考えられたわけです。

 

もちろんそれ以前は土地が富の源泉でしたから、土地を抑えた封建領主に都合のいい文化や政治となっていたと考えられますね。これが土地から生産へ変わったのが資本主義というわけで、それ自体は人類の進歩と考えられますが、代わりに資本家に搾取される労働者階級が生まれたことになります。そして封建時代のものは滅びました。

 

文化的価値観とフィクション

さて、この土台となっているものの上にのる文化ですが、封建時代であれば騎士道というものがありました。いうまでもなく領主に忠誠を尽くすものです。資本主義時代であれば、勤労奉仕の精神や時は金なりといった効率主義や合理化の精神があります(効率化や合理化が何より大事な価値観だから、困ると平気でリストラ出来るのです)。どちらも同時代において支配者が有利になるような価値観です。これがただ叫ばれるだけでなく、フィクションを通して人々にいきわたります。

 

封建時代であればドン・キホーテが読んだ騎士道物語がありますし、資本主義時代にはデフォーの『ロビンソン・クルーソー』があります。『ロビンソン・クルーソー』は無人島物語で冒険譚として読まれますが、実は無人島という未開地で自らの能力だけを駆使して開拓し、フライデーという部下を使った経営者のお手本のようなお話でもあるのでした。まさに資本家の鏡で、あるべき資本主義時代の理念を描くことに成功しているのです。

 

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こうしてフィクション、つまり文化も土台となる経済状態にあわせたように人間の価値観を作り上げていきます。しかし当然それは現在の支配階級を支えるものへとなってしまいます。となると批評の役目はこうした見えない権力の暴露を目的とします。それがマルクス主義的批評というもののようです(と、ここまで書いてなんですが、詳しくは誰か専門家の方の本を読んでくださいね。大体はあってるんじゃないかと思いますが、私の説明だけでは心もとありません)。

 

 

この見えない権力の暴露、というものはとても大切です。私たちが当たり前と思っている価値観も、実は知らないうちに忍び込んできた支配者層イデオロギーかもしれないからです。これはマルクス主義批評が担っていたくらいですから左翼の仕事ですが、立場は違えどネットから話題になっているものはやっていること同じにも見えます。ただ今現在目立つのは右派が左派を暴露し引きずり落とそうとしている方でしょう。おそらく戦後社会を左派が作り上げたという仮定のもと、その歪みが現在露呈しているので問題を指摘しているつもりなのかもしれません。しかしそう見えながら実は階級闘争の一種で、既に名を遂げた上位者に対して無名の者が場所譲れ、と叫んでいるのかもしれず、案外中身は旧左翼と同じ可能性もあります。土台となる経済状態が生産から消費、そして情報に移っているとしたら、その変動によって上にのっかっているものも変わるわけで、その途中なのかもしれません。しかし共産主義はソ連と化しました。今現在階級闘争であるとすれば、それはどこへ向かうのでしょうか。

 

世の中に役立つための表現

そしてそのソ連は、こうしたマルクス主義批評の持つ文学観を逆手に取りました。つまり、文学は資本家階級の支配を暴露、打倒し、労働者階級を解放するためのものではなくてはいけない。言い換えると文学は世の中の役に立つために書かれろ、というわけです。こうして作品どころか文学自体が国によって決められた、強制的な見解を持たざるを得なくなってしまいました。

 

そんな時代にロシア•フォルマリストは活躍せざるを得なかったのです。

 

参考となる本

【必読書150】 

渡部直己の発言があるのはこの本。買わなくてもいいですから、出ている本の名前だけでも目を通されることを願ってしまいます。古典中の古典ばかりで、しかも現代の古典まで含められています。もし全部読んだら自慢していいと思います。選定者の渡部直己(ちなみに吉本の渡辺直美じゃないですよ)や奥泉光でも選定した時点ではすべて読んでいなかったといいます。ちょっと敷居高すぎじゃないですかぁ、と怯えながら言いたくなるラインナップです。

【マルクス『ドイツ・イデオロギー』】 

マルクスによる唯物史観誕生の書。しかし完成原稿になっていないものを、マルクスの手稿を復元した形で再構成しているのですごく読みにくいです。廣松渉の世界的業績の訳業ですが、ちょっと初心者がおいそれと読めるものではないのではないでしょうか…よ、読みにくい…

 

【大塚久雄『社会科学における人間』『社会科学の方法』】 

『ロビンソン•クルーソー』が経営者や資本主義の典型として読めることを説明されています。こちらは上の2冊と違い読みやすく、とても面白いです。世の中がどうなってるのかわからん、と不思議に思われる方は読んでみるといいのではないでしょうか。新書ですからお手軽に手に入り読むことが出来ます。古い本としては珍しく、今でも普通に書店に置いてあることが多いと思います。

【フランクリン自伝】 

時は金なりの提唱者。上の大塚久雄が専門としていたマックス•ヴェーバーによって資本主義の精神の典型とみなされました。

フランクリンはすごい人で、その人物像が自伝を通して伝わってきます。資本主義の精神の典型とみなされるだけあって実に行動力溢れて、様々なことにチャレンジしています。少年の頃から新聞を発行して売ったり、避雷針を発明した科学者だったり、政治家としても偉かったりしました。

面白いのは現在たくさん出ているビジネス書や自己啓発本の元祖はこの本だとも言えることです。その手の本の古典とみなされるのはカーネギーでしょうが、それよりもっと前になります。そして質など比較になりません。カーネギーは成功者から聞いた話をまとめただけですが、フランクリンは自らが成功者、いえ偉人でした。それにカーネギーがしたようなことは印刷業者だったころに格言つきのカレンダーを作った時点でやっていたといえます。数多あるビジネス書、自己啓発本を読むのならば、この一冊をとりあえず読むことをおすすめしめす。それからまた他のビジネス書や自己啓発本を読んでみればいいのではないでしょうか。

 

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 お話その49(No.0049)