日々是〆〆吟味

自分で考えていくための参考となるお話や本の紹介を目指しています。一番悩んだのは10歳過ぎだったので、可能な限りお子さんでもわかるように優しく書いていきたいですね。

目に見える世界=空間と時間によって現れる言葉により起こる表現の分断 〜芸術表現によって変わる現実の姿(付:バルザック『ゴリオ爺さん』/山口昌男『山口昌男コレクション』『山口昌男ラビリンス』)

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言葉と視覚世界 〜目に見えるものを言葉にすると世界は分断され置き換えられる?

恣意的な結合としての記号

言葉が対象と恣意的に結びついている、という関係を記号と呼びます。これ僕の、と名前を書いておくような姿を思い浮かべてもらえばいいかもしれません。名前というものがサインや印と一緒の働きをして、そうしたサインや印のことを記号と呼ぶわけですね。物にシール貼るようなもので、シール貼ることを記号化ということになるでしょうか。

 

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これが便利な考え方だというので、昔随分流行りました。記号論というのですが、日本では80年代頃に流行ったそうです。そのおかげでよく古本屋に並んでいて手に取りやすく、今でも探せば簡単に見つかるかと思います。最近になってこの頃出た大きな本が文庫化されたりもしています。この文章を読んでいらっしゃる中には詳しい方もいるかもしれません。そうした方々は私の書いたものはいいかげんだなぁ、と笑ってすましておいてくださいね。

 

小説と視覚世界

さて、もうちょっと小説の言葉に戻ってみましょうか。言葉がこうして対象を記号化し、小説がそうした言葉によって充満しているものだとすれば、どうして小説が時間的芸術になるのか理解が深まりそうです。

 

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私たちが周りの世界を捉える時、どうしても視覚を中心に捉えてしまいます。目に見える世界こそが人間にとって中心となる世界の姿だと考えられそうですが、犬であれば臭いによって、コウモリであれば音によって世界像が生まれてきそうですけれども、きっと人間は目に見えるものによって世界像を生み出し持っているのだと思います。

 

視覚=空間世界とその記号化

視覚によって世界像を持っているということは、当然空間的に世界を捉えていることになるでしょう。つまり芸術的には絵画のようにして私たちは世界を捉えているわけですね。しかし、視覚だけでは世界はただ五感によって捉えられているだけで、いわば感覚的というか印象的というか、自分の中で世界が映っているいうだけということになってしまうかもしれません。

 

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けれども人間はそれではすまないように作られているようです。目の前に映っているものを、なんだこりゃ、と疑問に思い考えてしまう存在で、放っておいても考えるんだ、と昔のとても偉い哲学者のカントは言いました(もっと難しく言いましたけど)。とりあえずそれを受け入れるとして、考えるとなると目の前に映っているものを在るものとして記号化し、言葉にする必要があります。そしてその言葉を使って考えていくことになります。

 

記号の並べ順=直線化

この時視覚的に捉えられた世界に存在する、目の前にある一つ一つの物が言葉にされるわけです。それは視覚によって一瞬にして全体的に捉えられる世界を、対象となるもの一つ一つを個別に捉え直すようなものです。たとえばテーブルの上にリンゴ、パイナップル、柿、いちご、梨が白い一枚の広いお皿の上に乗っている。こう説明するだけでも7つの固有名詞があり、物の対象が記号化されて言葉になっています。読むと1、2秒かかりそうです。しかしこの説明された光景を直接見ると一瞬で終わります。つまり空間的に一瞬で受け取れる情報を、言葉にすることによって個別に順序に従いながらしか受け取れなくなるわけです。

 

 

そしてこの順序が一直線にしかなりませんので、前から後、前から後、と時間と同じ進み方になり、小説は時間的芸術となるのではないでしょうか。

 

つまり言葉によって表現したり説明したりするということは、視覚的世界においては一瞬で捉えられるものを、個別的にわけて1つずつ順番に捉えていく、という風に置き換えられてしまうわけです。そのため視覚的なものを言葉で表現しようとすると本来の姿のようには再現できないわけですね。言葉では必ず対象を記号化し分断してしまいますから、全体を一瞬にして捉えられるような視覚的な受け取り方ば不可能なわけです。1つずつ1つずつ、順番に順序よく続けて直線的に読んでいくしかありません。空間を直線に無理矢理置き直してるわけですね。

 

こんな感じに理解してみましょうか。

 

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参考となる本

【バルザック『ゴリオ爺さん』】 

視覚的に世界を言語化する困難は、やっぱりバルザックを読むとわかりやすいかと思います。バルザック自身は当時猛発展していた科学の信奉者で、こうした書き方をしたのはあらゆるものがいつか科学的に証明されるはず、という期待から生まれた、とどこかで読んだ覚えがあります。いわばバルザックの思想から必然的に生まれた文体だったわけですが、それが違う形で問題を投げかけてくれます。描写って、難しいもんだなぁ。

【山口昌男『山口昌男コレクション』『山口昌男ラビリンス』】 

こちらは昔日本で代表的な記号論者としてみなされていた山口昌男です。もともと文化人類学者だったのですが、最新の思想や学問を身につけ、当時八面六臂の大活躍だったそうです。

もう亡くなってしまいましたが、こちらは亡くなった後に出されたアンソロジーです。きっと著者のエッセンスが出ていて最初に読むのにいいかもしれないと思って載せてみました。私は他の作品をいくつか読んだくらいですが、とても面白かったです。

また 

単行本未収録の文章を集めたこんな凄い本も出ています。ネットで見てもわからないでしょうが、電話帳2冊分くらいのデカい本です。誰も買おうと思わないでしょうけれど、その大きさだけでも面白いので載せておきます。もしどこかの古本屋さんで見かけたら指差して笑ってあげましょう。でかっ!

 

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 お話その38(No.0038)